それぞれの市町が手を取り合う
豊かな自然と四季を身近な存在として親しんできた日本独自の文化であり、心の安らぎや充足感、ストレスの解消などを自然環境の中で得る営みを通してSDGsや地方創生の実現を目指す「ノアソビSDGs協議会」。
今回は「ノアソビSDGs」に参画している市町のひとつである、三重県いなべ市で行った二日間に渡るワークショップツアーの様子についてレポートしていきます。
2022年11月初旬。観光に特化した全国自治体の有識者たちが、一同に三重県いなべ市役所に集いました。先進的にプロジェクトを進め野遊びを楽しむツアーをつくる北海道の十勝地方にある芽室町(めむろちょう)、秋田県の大館(おおだて)市の担当者や事業者など。
その目的は、雄大な鈴鹿山脈をはじめとする自然や文化など、いなべ市がもつポテンシャルを掘り起こし、その資源を磨き上げるヒントを得ること。そして事業者同士の交流及び意見交換を行い、各市町のコンテンツ開発を推進するためです。
はじめに、「ノアソビSDGs協議会」の副理事長であり株式会社スノーピーク 地方創生担当顧問である後藤健市氏の挨拶からスタートしました。
「まずは、いなべ市だからこその価値を存分にまずは体感してほしい。そして現時点で抱く未来への希望、そしてそれを叶えるために乗り越える課題を議論しあう仲間として、一緒に考え、自分ごと化してほしい」
その後、ホストである三重県いなべ市の加藤氏より「有識者もお越しいただいている中で、忌憚のないフィードバックをいただき、プロジェクトの推進力にしていきたい」と話がありました。
官民一体となり新たなブランドを創出
ここからは会議室を飛び出し、実際に地域を回って視察をします。移動のバスの中で参加者の自己紹介を行いながら一番最初に向かった先は、いなべ農産物直売所『ふれあいの駅うりぼう』。ここで毎月行っている、地元いなべ産の蕎麦粉と小麦粉でつくる蕎麦の手打ち体験に参加しました。
三重県で「麺」と聞いて最初に思い浮かぶのは「伊勢うどん」でしょうか。あまり蕎麦のイメージはありません。そんな中、いなべ市では、蕎麦を使った地域おこしに積極的に取り組んでいます。蕎麦栽培は決して古くから行われていたわけではありません。獣害被害に悩まされていたことをきっかけに、気候的に適している蕎麦を新たに栽培し、市で一体となってブランド化に取り組んできました。
その効果もあり、今では三重県一の産地になるほどまでに農地は拡大。認知も広がりメディアにも度々取り上げられるまでとなっています。 そんな話を有志である地元の講師の皆さんから伺いながら、和気藹々と手打ちそば体験に取り組みます。
そばづくりは、それぞれの工程でコツがいります。水回し・練り・のし・切り......と、苦戦しながらもみんなで協力しながら完成させ、盛り蕎麦にしていただきました。
未来への発信基地 okudo 中村舎
三重県いなべ市周辺ではお米を炊く「かまど」のことを「おくど」と呼びます。「おくど」とは“台所の神様”という意味で、八百万の神に感謝する心からそう呼ぶようになったのだとか。その心を大切にしたい想いで名付けられた場所『okudo中村舎』が次の目的地です。
okudo中村舎は、地域おこし協力隊として空き家の利活用や移住者サポートをされていた山崎さんが、築150年以上の伝統的家屋と出会い「いなべに伝わる昔ながらの暮らしを紡ぎたい」という想いから運営されています。
大きく聳える門をくぐると、早速古民家ならではの体験が待ち構えていました。地域を支えるトヤオ工務店大工の鳥谷尾さんから手解きを受けながらつくるのは、マイ箸。トオヤ工務店では地元自然素材(木・土・紙等)をすべて”地産地消”する家づくりを推進しており、今回の箸の材料である素材も間伐材です。
木材を削るための工具鉋(かんな)に触れること自体はじめてな人も多く、こわごわしていた参加者も、いつのまにか集中し黙々と目の前の木を削り続けます。
その後は伝統家屋の探索ツアーを楽しみます。おもてなしの心が伝わる客間、当時の新聞に包まれて大切に保管された学生時代の成績表、手入れされた色艶の良い建具たち。つい数年前までここで暮らしていた方の生活がまざまざと実感できる道具たちに触れ、先人の息遣いを感じました。
一通り家屋を見学した後は、参加者全員で夕食。薪を割り、マイ箸づくりの際にでたかんな屑を火種に『okudo中村舎』の名前の由来でもある立派なおくどでご飯を炊きます。
順に火の番をしながら大きな羽釜で炊いたご飯をおひつにうつし、みんなで握っていきます。「炊き立ては熱いね」「ちょっと大きいんじゃない?」そんなたわいもない話をしながら台所で過ごすこの時間が、何ものにも変え難い価値を感じました。
長いようであっという間の一日の最後は、お待ちかねの懇親会。多忙な中時間を割いてお越しいただいた北海道芽室町長の乾杯の発声を皮切りに、それぞれの地域の紹介を改めて行いました。
近所のおかあさんたちや事業者の方々が用意してくださった料理を堪能し、火を囲んで交流を深め一日目を終えました。
野遊びを介して関係人口が育まれる場所に
天気にも恵まれた二日目の朝は「鈴鹿山脈」と清流「青川」の自然に囲まれた自然体感型キャンプ場『青川峡キャンピングパーク』の視察からスタート。
家族でゆったりと過ごす人、ソロキャンプを楽しみたい人、川遊びを楽しみたい人、愛車とのドライブを楽しみたい人……心からアウトドアを楽しめるよう、それぞれのニーズに合わせたログハウスやコテージ、フィールドが用意されています。
いなべ市の豊かな自然資源のポテンシャルを体感した後は、いよいよ今回の一番の目的地『梅林公園』へ。実は今後、野遊び推進事業の拠点となる予定地なのです。
いなべ市にとってのより良い暮らしを想像しながら構想を進めている「野遊び推進事業プロジェクト」。どんな拠点になるべきか、それぞれ思いを馳せます。
持続可能な新しい地域創生のかたち
ワークショップツアーの最後に、ディスカッションを行いました。理事である山本を中心に、有識者から二日間のワークショップを通して感じたいなべ市のポテンシャルや課題をざっくばらんにお話しいただきました。
ありのままの自然に付加価値をつけ観光コンテンツを生み出してきた株式会社VISIT九州 代表取締役の枌(へぎ) 大輔氏からは、「とても興味深い体験だった。その上でより”いなべ市”だからこそできるというコンテンツに磨き上げることが必要」という言葉を。潜在訪日外国人を対象に情報発信を行っている和テンション株式会社代表取締役の鈴木 康子氏からは「本当に訪日外国人をターゲットにすることを視野に入れるのであれば、まずはリサーチが必要」というアドバイスをいただきました。
ノアソビSDGsの理事であり、このディスカッションのファシリテーターの山本は「地域で暮らす人たちが欲しい未来をちゃんと描き、共有する。域外との関係人口はその上ではじめて成り立つ。そこを理解しないことには持続可能な地方創生は成り立たない。個のポテンシャルはとてもあるため、官民一体となりチームとしてこのプロジェクトを成功させてほしい」という言葉で締めくくりました。
二日間のワークショップツアーを終え、それぞれ参加した市町の方々も「事業者同士の課題を共有できた」「規模やフェーズは異なるが同じ志をもつ方々と触れ合うことができてとても刺激をもらえた」「自分たちの地域に重ねてみることが多かった」など前向きな感想が出るとてもいい機会となりました。
今後も「ノアソビSDGs協議会」では「野遊び」を通じて豊かな地域、社会、世界、未来を創造し、地域の”らしさ”を尊重した地方創生を実現していくために活動してまいります。