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2024年2月

ノアソビSDGsフォーラム 2024が大館市にて開催

つながり、深まり、そして広がるノアソビの連携

“野遊び”は、自然を身近な存在として親しんできた日本人に馴染み深い活動です。自然環境の中で、充足感や心の安らぎを得ることができ、豊かな生き方に近付く活動でもあります。

この“野遊び”を通じて、SDGsや地方創生の実現を目指し活動しているのが「ノアソビSDGs協議会」です。地域や国境の垣根を越えて、“野遊び”で真に豊かな社会を目指しています。

今回は、ノアソビSDGs協議会に加盟している秋田県大館市で行われたノアソビSDGs自治体フォーラムと、それに合わせて地域のプロジェクトチームが企画した体験コンテンツをレポートしていきます。

異例の暖冬で雪の降らない日々が続いていた秋田県大館市。フォーラムが開催された2月17日の前日は、雪の神様が雪国ならではの歓迎をしようとしたのか、久しぶりの大雪となりました。

フォーラム当日、大館市のイメージキャラクターのはちくんがお出迎え。”野遊び”を通じて地域創生に取り組む全国各地の有識者たちが、秋田県北部に位置する大館能代空港に降り立ちました。すでにノアソビプロジェクトを通じて地域の観光開発に取り組んでいる北海道芽室町、三重県いなべ市を始め、今回のフォーラムには新たに青森県東通村の方々も参加。(今回のフォーラムへの参加は叶いませんでしたが、この1年で愛知県岡崎市と岐阜県揖斐川町も新たにノアソビSDGs協議会に加盟。)

そのほか、大館市を始めとした秋田県の4市町村を観光地域として盛り上げる「秋田犬ツーリズム」、タイ人向けの日本ツアーを計画しているタイ人経営者の方々などがモニター参加者として加わりました。

フォーラム会場に移動する前に、ノアソビSDGs協議会の理事である山本聖が、集まった方々に向けて、今回の企画の趣旨や行程を説明。自治体同士の連携によって相互誘客の向上などの新しい価値が生まれることを期待し、今回のフォーラムが互いに学び合える時となるよう参加者に呼びかけました。

オリエンテーションを終え、会場へ移動する前に腹ごしらえ。大館市が誇るきりたんぽ鍋です。秋田県は全域できりたんぽ鍋を食べる習慣があり、味付けや具材等もお店や家庭ごとに違いがあります。そのような中で、大館市ではきりたんぽ鍋のレシピを統一。“これぞ大館の味”を確立しました。大館のきりたんぽが全国的に知られるようになり、「きりたんぽの本場大館」と呼ばれるようになったのです。

大館市を代表するきりたんぽ鍋のレシピは、比内地鶏の出汁と肉、せり、ネギ、まいたけ、ごぼう、そして秋田産のあきたこまちで作られたきりたんぽ。比内地鶏の極上の出汁を味わい、身体がぽかぽかになりました。

【五色湖×SnowPeak 野遊びフィールド】

お腹を満たしたらバスに乗り込み、いよいよフォーラムの会場となる五色湖へ出発です。

田代岳の麓にある五色湖キャンプ場は、2025年のリニューアルに向けて官民一体となってコンテンツの開発が進められているエリアです。空港からバスで揺られること50分。会場の五色湖キャンプ場に到着しました。

普段は見晴らしの良い静かなキャンプサイトですが、この日はスノーピークのテントや焚火でダイナミックな”野遊び”空間が作られていました。

秋田犬の陸奥君がお出迎えしてくれました。秋田県大館市は、昨年生誕100周年を迎えた忠犬ハチのふるさとで、「秋田犬の聖地」と言われています。2009年にアメリカで製作された映画『HACHI約束の犬』の影響もあり、秋田犬は世界的に注目される犬となりました。

夕方に予定されているフォーラムの前に、参加者は地域の方々が企画した“大館らしさ”を楽しみました。まずは会場内に用意された体験コンテンツからです。

まず参加者の目を引いたのは、木にくくりつけられた桃色の飴。真っ白な雪景色と桃色の飴との色合いがとても鮮やかでした。400年以上続く大館市のお祭り「大館アメッコ市」を再現したものです。「飴」をテーマにしたお祭りで、県内外や海外から2日間で8万人以上の来場者が訪れます。「アメッコ市のお祭りの日にアメを食べると風邪をひかない」と言い伝えられており、田代岳に祀られる白髭大神(しらひげおおみかみ)までもがアメを買うために里まで降りてくるとの逸話も。

参加者は白髭大神と記念撮影をしながらアメッコ市の雰囲気を楽しみました。

会場内にはテントサウナの体験ブースも。特に楽しんでいたのは、タイ王国からのインバウンド参加者でした。タイは日常的に高温多湿の気候なので、サウナを楽しむ習慣はありません。タイでは決して見ることの出来ない“雪山×サウナ”の組み合わせは大好評。サウナに入ることで“寒さ”が“心地良さ”に変わった事がとても新鮮な体験だったようです。

ガイドの指導のもとでサウナに使う薪割を楽しむ参加者

サウナ体験中の参加者が整っているあいだ、他の方々は雪国名物の「ケツジョリ」で遊びました。「ケツジョリ」では、ビニール袋や肥料袋をソリ代わりに使用します。

意外とスピードの出るケツジョリ。子供から大人まで手軽に楽しめる遊びです。

体験コンテンツは更に続きます。参加者は一旦フォーラム会場を飛び出し、バスに乗って田代岳の山間部へ。NHK『にっぽん百低山』にも取り上げられたこともある、人気の山です。

【田代岳の雪遊び】

五色湖の上流に位置する岩瀬川渓流の景色を楽しみながら進むこと30分。標高700m程のところまで進むと、そこにはブナ林が広がっていました。田代岳のブナ林は、人の手が入っていない原生林が残る貴重な存在。オールシーズンを通して訪れる人を楽しませてくれる人気の場所です。

バスを降り、ガイドの説明を受けながら冬のブナ林を散策していきます。

まず参加者には、雪道を歩くための道具が配られました。雪の上などを歩くための昔ながらの民具「かんじき」と、雪の上を快適に歩くための雪上歩行具「スノーシュー」のどちらかを選び、装着します。初めて履く「かんじき」や「スノーシュー」に戸惑いながらも、いざ歩いてみると雪に沈まず歩けるかんじきの利便性に感動!まだ誰も歩いていない真っ新な道なき道を登り楽しみます。

田代岳の雪を使ったコンテンツとして、今回注目を集めたのが「雪板」です。

雪板は2010年代に開発された、日本発祥のウィンタースポーツ。スノーボードと違い、板と足を固定する様な金具は無く、板の上に靴のまま立ってライドします。

フカフカのパウダースノーと、見渡す限りの天然ブナ林。真っ新な雪の中を駆け抜ける迫力ある体験に、参加者たちも童心に帰ったように繰り返し滑っていました。雪山と言うとハードなウィンタースポーツをイメージする方も多いですが、雪板は誰でも手軽に始めることができ、雪山初心者の方でも楽しく遊べるアクティビティでした。

【歴史と未来が交わるキャンプ飯 TACO穂】

大満足のアクティビティも終わり、今回の目玉企画の一つ、キャンプ飯の時間です。メインディッシュは、大館のきりたんぽをキャンプスタイルにリメイクした「TACO穂」です。蒸したきりたんぽをプレスして、モチモチのトルティーヤとして食べます。

蒸したきりたんぽをプレス機の上に載せて……

ぎゅっとつぶします!

きりたんぽが、もちもちのトルティーヤ風になりました!

きりたんぽは、もともとマタギが狩りに向かう際に保存食として潰したおにぎりを棒に刺して持って行ったことがルーツだと言われています。一方、トルティーヤはメキシコを中心とする南米の地域で生まれ、こちらも保存可能な主食として人々の暮らしを守って来ました。狩猟採集と農耕民族の違いはあれど、同じように人々の暮らしを育んできた縄文文明とマヤ文明が出会い、今回、TACO穂という新たな構想が誕生しました。現在は試作段階ですが、商品化を目指して試行錯誤を進めています。

中の具は、比内地鶏とその油と旨味が染みわたったグリル野菜です。

料理人の方が、参加者の目の前で鮮やかに捌いてくれました。

モチモチの生地に枝豆のペーストとジューシーに焼き上げた比内地鶏と野菜を盛り付けます。ラクレットチーズ、アボカドをトッピングし、最後にお好みのソースや薬味を盛り付けたら「TACO穂」の完成です。


スパイスが効いたTACO穂とビールの相性は抜群。屋外にも関わらず、冷えたビールが人気でした。

そして、参加者の間で「うまい」の声が飛び交ったのが、地元のお父さんが作った馬肉の煮付け。

醤油ベースで甘味のあるタレの隠し味に使われているのは、なんとトマトケチャップ。お店でも食べたことがない味だとお代わりする方々が続出しました。

【“野遊び”で深まる3市町のつながり】

日が暮れ始めた頃、「グランベルク」と呼ばれるスノーピークの大型シェルターテントを会場に、メインイベントであるノアソビSDGs協議会自治体フォーラムが始まりました。

4回目の開催となるフォーラムの始まりは、開催地である大館市の福原淳嗣市長の挨拶から。「白神山系の東端にある五色湖キャンプ場から、野遊びの楽しさを共有できるひと時をつくっていきたい」と意気込みを語りました。

大館市長のほかにも、北海道芽室町の手島旭町長、三重県いなべ市の日沖靖市長(オンライン)から、それぞれの自治体の取り組みやビジョンについて話がありました。

今回のフォーラムには、タイ人向け情報メディアを運営しているDACO Co.,Ltd.の中本光則代表が特別ゲストとして参加しました。

「タイ王国では、都心を離れて地方を訪れて野遊び(自然体験)をする観光が流行っている。日本観光に関しては東京、大阪、京都、福岡、北海道を行きつくして、新たな観光地の需要が高まっている傾向も。特に体験型観光に注目が集まっているので、今回のような体験重視の企画はとても面白い。タイの人を連れてきたい」

続いて、大館市で地域プロデューサーとして活動する佐藤和幸氏も挨拶。「地域には豊かな自然資源がたくさんある。そして、これまで地域を支え、いろいろな歴史や文化を知る先輩たちがいる。我々はたくさん学んで、この地域の魅力を最大限伝えられるように取り組んでいきたい」と力強く語りました。

最後は大館市の福原市長が「この繋がりを大切に」と、”野遊び”を通して市町間の連携を更に強め、共に観光資源を磨き上げて行くと宣言。4回目となるノアソビSDGs協議会自治体フォーラムは閉会となりました。

フォーラムが終わり、テントから出ると、地元の方々が作った雪灯篭が灯されていました。参加者は揺れる雪灯りに照らされ、思い思いの表情を浮かべながら五色湖のフォーラム会場を後にしました。

【そして広がるノアソビSDGsの連携】

今回のフォーラムを通して見えて来たのは、ノアソビの繋がりが着実に広がっているということ。国内だけでなく、海外にも広がる繋がりによって生まれた気付きや体験が、地域の力となっています。

今回、タイから参加した方々は、大館市の自然、文化、食をとても喜んでいました。2025年の冬には、タイから従業員を連れて秋田への団体旅行を計画しているそうです。

協議会の副理事である後藤健市氏は、「県境や地域を越えて、実際にノアソビが広がり始めていることを感じる。自治体同士がつながることで日本の”野遊び”の魅力は更に磨かれていくだろう」と今後の取り組みに期待していました。

参加した市町の方々からも「”野遊び”を通して地域創生を目指す仲間と出会い、つながることが出来た」「官民の連携、老若男女世代を越えたチームで取り組むインパクトを感じた」など前向きな感想が聞こえてくる機会となりました。

ノアソビSDGs協議会は、今後も“野遊び”を通して地域創生を目指していきます。加盟自治体同士が連携し、交流し続けることで、“野遊び”は更に魅力的なコンテンツへと磨かれていくでしょう。

レポートの最後は、ノアソビSDGs協議会理事の小原壮太朗氏が熱く語った言葉で締めくくりたいと思います。

「日本の豊かな自然環境にはポテンシャルがある。その地域の資源を再発見し、再編集することで付加価値のある商品として提案できる。あらゆるステークホルダーがワンチームとなり、“野遊び”に取り組んで行きましょう」


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